瀬戸内海を代表する景勝地、鞆の浦。
鞆の浦とは、広島県福山市鞆町の入江を表し、鞆港を囲む周辺エリアのこと。このエリア一帯は国立公園にも指定されています。瀬戸内海のほぼ中央に位置することから、海上交通の要所として栄えてきたこの港町には、風情ある古き良き町並みが今もなお残されており、フォトジェニックなスポットとして注目を集めています。
高さ日本一の常夜燈は鞆の浦のシンボル
レトロでおだやかに流れる時間を感じることができる鞆の浦。そのシンボルとも言える常夜燈は、船の出入りを誘導してきた灯台の役割を果たし、港の常夜灯としては高さ日本一。
常夜燈とともに見えるのが、雁木(がんぎ)と呼ばれる船着き場。干満の差の大きい鞆港では、潮の満ち引きに関係なく、いつでも荷船が着岸できるように、石積み階段状の雁木が半円形の港内全長にわたりほぼ連続的に巡らされています。満潮時には雁木の上端の方が岸壁となり、潮が引くとともに一段ずつ下方の雁木が使われ、干潮時には最下段が荷揚げ場となります。写真では、石段の多くが露わになっており、石階段の濡れ具合を見ても、潮が引いた後であることが読み取れますね。
記事を編集中に知ったのですが、鞆港には、常夜灯や雁木の他に、波止、船番所跡、焚場跡といった港湾施設があり、これら5点すべてが揃っているのは国内では鞆の浦だけとのこと。波止、船番所跡、焚場跡の写真は撮りそびれたので、次に訪問する機会があれば、忘れずに立ち寄ることにします。
夕暮れ時、オレンジ色に染まる鞆港。手前にピンとが合っているため、奥の常夜燈や雁木はボケてしまってますが、石階段を見てみると、水位がかなりあがっているように見えます。
福禅寺 対潮楼の座敷から眺める絶景
福禅寺 対潮楼。この写真のすぐ後ろはフェリー乗り場で、海が広がっているのですが、石垣が積まれていて高い場所に位置しており、行ってみると絶景が広がっていました。
対潮楼(たいちょうろう)という建物は、江戸時代に建てられた客殿。建物内にある座敷の一角が開け放たれていて、そこから見る景観は素晴らしく、ここを訪れた朝鮮通信使が「日東第一景勝」と賞賛したそうです。日東第一景勝とは朝鮮より東で一番美しい景勝地という意味。建物の柱を額縁に見立てて、対岸の弁天島やそこに建つ弁財天 福寿堂、皇后島や奥に見える仙酔島を含めた瀬戸内海の景色を、1枚の絵画のように見ることもできます。
観光客が少なかったので、誰も居なくなった隙に客間を撮影。海風が心地よく、とても開放的でした。
レトロで趣深い路地散策
鞆の浦を訪れるもう一つの目的、路地散策。
石畳の路地を挟んで、歴史が深そうな趣きある町家や商家が隙間なく軒を連ねています。
さっきから十数メートル進んだだけなのに、また1枚撮りたくなるほど、写欲が掻き立てられる景観。
映画「崖の上のポニョ」の舞台とされていることから、ポニョにちなんだアートも点在しています。
路地からさらに小道に足を踏み入れていくと、建物の裏側に回ってきました。この先、どこに繋がっているのか想像を膨らませながら、路地の迷路を楽しみます。
病院をリノベーションした絶品イタリアンのお店を見つけました。カフェーと、あえて長音符を付けるところに、らしさを感じてしまいます。
鞆の津の商家
江戸時代末期当時の、鞆の町家の典型であるとして、市の重要文化財に指定されている鞆の津の商家に立ち寄りました。
炊事場跡。
商家を訪れる子供たちから「トトロの電話」と喜ばれているこの電話。
かつては、蔵で埃をかぶっていたそうだが、みんなに見てもらおうと表に出てきたのだとか。この四十番の電話は関町にあった森田の保命酒屋の電話だったそうです。
鞆の浦で見つけた昭和のレトロ遺産
散策していたら見つけたレトロな自動販売機。自動販売機の平均的な寿命は10年ですが、交換のタイミングであえて新しいものに入れ替えなかったのか、そのお陰でノスタルジックな町に溶け込んでいます。小さな赤いポストも、このまま行けば数十年後には味が出てきているかも。
この自販機も、建物と同化していました。
レトロなタバコ屋。タイル張りのデザインにステンドグラスが昭和の時代を思い出します。ショーケースは銀のシートで覆われていました。
鞆の浦の町中への車の乗り入れは控えて
古い町並みが残ったままの情緒あふれる鞆の浦ですが、道路も大部分が江戸時代から継承されたものであるため、町中を走る県道47号線を含め、道幅狭小区間が存在しています。それでも車の交通量はそれなりにあり、小型タイプのバスも運行されているなか、道幅や対向車を確認せずに突き進んでしまうと、離合に時間を要し、渋滞が発生するなど、窮屈な運転を強いられます。
この問題を解決するために、港の一部を埋め立てて、海側に橋を架けるというバイパス設置計画がありましたが、景観保護の観点から反対があり、事業計画は中止に。代替案として、山側にトンネルを作ろうとしていますが、用地買収が進んでいないらしく 完成の目途が立っていない模様です。
つまり、問題を抱えつつも解決には向かっておらず、観光客への呼びかけとして、鞆の浦の町中への車の乗り入れを控え、手前の駐車場を利用するか、グリーンラインを利用して大きく迂回することが推奨するといった案内に留まっています。
鞆の浦へのアクセス
鞆の浦は、福山駅から南へおよそ14kmの場所にあります。
車で行く場合、福山市街地側からなら前述の通り、鞆の浦への町中への車の乗り入れは避けて、手前の鞆の浦観光駐車場へ。尾道市側から海側を走るなら、グリーンロード利用による迂回ルートで、鞆の浦観光駐車場へ。
車以外なら、福山駅からトモテツバス(路線バス)が運行されています。乗車時間は30分ほど。また、福山駅からだとレンタサイクルという手段もあります。これなら1日わずか150円。
そしてもう1つ、尾道と鞆の浦はフェリー(瀬戸内クルージング)で繋がっています。乗車時間は1時間ほど。筆者も、鞆の浦から尾道に向けて利用したことがあります。クルーズ船は、鞆の浦旅客船ターミナルを出港直後は弁財天 福寿堂を海側から眺め、内海大橋や尾道大橋をくぐって尾道までの景色を海側から眺望、さらに造船所近くを通るルートで、なかなか迫力がありました。